ヒアリングマスター講座
課題の本質を見抜く質問技術 - 聞き上手は売り上手
「お客様は自分が何を求めているか分かっていない」
スティーブ・ジョブズの有名な言葉ですが、これは法人商談でも同じです。クライアントが口にする「要望」の裏には、本人も気づいていない「本質的な課題」が隠れています。
優秀なディレクターは、この隠れた課題を見つけ出し、クライアント自身に「確かにそれが問題だった!」と気づかせることができます。そして、その瞬間から、あなたは単なる「制作者」ではなく「課題解決のパートナー」になるのです。
この章では、表面的な要望から本質的な課題を掘り下げ、相手が自ら解決を望む状態を作り出す、プロフェッショナルなヒアリング技術をお伝えします。
なぜヒアリングが商談の成否を分けるのか
提案の質は、ヒアリングの深さで決まる
実際にあった2つの商談の違い
❌ 浅いヒアリングの結果:
クライアント:「LPを作り直したいんです」
営業:「分かりました。いつまでに必要ですか?」
→ 結果:ただきれいなLPができただけで、売上は変わらず
✅ 深いヒアリングの結果:
クライアント:「LPを作り直したいんです」
営業:「なるほど。ちなみに、なぜ今のタイミングでリニューアルを?」
クライアント:「実は最近、問い合わせが減ってきて...」
営業:「問い合わせが減った原因は何だと思われますか?」
クライアント:「競合が増えて、うちの強みが伝わってないのかも」
営業:「じゃあ、本当の課題は差別化ポイントの訴求ですね」
→ 結果:強みを明確に打ち出したLPで、問い合わせ数が2.5倍に
この違い、感じていただけるでしょうか?ヒアリングの深さが、成果の大きさに直結するのです。
ヒアリングの3層構造 - 氷山の下を見る技術
要望の裏にある本当のニーズ
クライアントの要望は氷山の一角。本当に解決すべき課題は、もっと深いところにあります。
【ヒアリングの3層構造】
第1層(表層)- What:何をしたいか
「LPを作りたい」「デザインを変えたい」
第2層(中層)- How:どうなりたいか
「売上を上げたい」「ブランドイメージを変えたい」
第3層(深層)- Why:なぜそれが必要か
「家族との時間を増やしたい」「業界のパイオニアになりたい」
各層への掘り下げ方
第1層→第2層への質問例
「LPを作りたい」と言われたら...
→「新しいLPで、どんな成果を期待されていますか?」
→「現在のLPの、どこに課題を感じていますか?」
→「理想的には、どんなLPになったら嬉しいですか?」
第2層→第3層への質問例
「売上を上げたい」と言われたら...
→「売上が上がったら、何に投資したいですか?」
→「なぜ今、売上向上が急務なのですか?」
→「売上目標を達成したら、次は何を目指しますか?」
プロの視点
第3層まで掘り下げると、クライアント自身も気づいていなかった「真の動機」が見えてきます。そして、その動機に訴えかける提案は、圧倒的に刺さりやすくなるのです。
ファネル思考でビジネス全体を理解する
ファネルとは何か
ファネル(漏斗)とは、見込み客が顧客になるまでの流れを表したものです。どんなビジネスも、必ずこのファネル構造を持っています。
【典型的なオンラインビジネスのファネル】
認知(SNS、広告)
↓
興味(Webサイト訪問)
↓
検討(資料請求、問い合わせ)
↓
購入(申し込み、契約)
↓
継続(リピート、アップセル)
なぜファネル思考が重要なのか
ボトルネックを見つけられる
クライアントが「LPを改善したい」と言っても、本当の問題は別の場所にあるかもしれません。
実際の診断例
営業:「現在、月間何人くらいLPを見ていますか?」
クライアント:「100人くらいです」
営業:「そこから問い合わせは何件くらい?」
クライアント:「5件くらいかな」
営業:「問い合わせから成約は?」
クライアント:「1件あるかないか...」
営業:「なるほど。実はLPの問題より、そもそもの流入数が少ないことと、
問い合わせ後のフォローに改善の余地がありそうですね」
ファネル分析の実践質問集
各段階での具体的な質問
- 認知段階
- 「新規のお客様は、主にどこから来ますか?」
- 「月間の新規訪問者数はどれくらいですか?」
-
「競合と比べて、認知度はいかがですか?」
-
興味・検討段階
- 「サイトの滞在時間は平均どれくらいですか?」
- 「どのページが最も見られていますか?」
-
「離脱率が高いページはありますか?」
-
購入段階
- 「問い合わせから成約までの期間は?」
- 「断られる理由で多いものは?」
-
「価格以外の購入障壁は何ですか?」
-
継続段階
- 「リピート率はどれくらいですか?」
- 「お客様からよく聞く不満は?」
- 「アップセルの成功率は?」
質問のテクニック - プロが使う7つの技法
1. オープンクエスチョン戦略
使い方
最初は広く聞いて、徐々に絞り込んでいく。相手に自由に話してもらうことで、予想外の情報が得られます。
実践例
レベル1:「事業について教えてください」(超オープン)
レベル2:「集客面での課題は何かありますか?」(やや絞る)
レベル3:「SNSからの流入は月何人くらいですか?」(具体的)
2. ミラーリング質問法
使い方
相手の言葉をそのまま使って質問を返す。これにより、相手は「ちゃんと聞いてもらえている」と感じます。
実践例
クライアント:「最近、単価が下がってきたんです」
あなた:「単価が下がってきた...それは心配ですね。
いつ頃から下がり始めたんですか?」
3. 仮説検証型質問
使い方
事前リサーチから仮説を立て、それを確認する形で質問する。外れても、正しい情報が得られます。
実践例
「拝見したところ、20代女性がメインターゲットのようですが、
実際の顧客層もそんな感じですか?」
「もしかして、Instagram経由のお客様が多いんじゃないですか?」
4. 数値化質問法
使い方
曖昧な表現を具体的な数字に変換してもらう。これにより、問題の深刻度が明確になります。
実践例
クライアント:「最近、問い合わせが減って...」
あなた:「具体的には、以前と比べて何%くらい減りましたか?」
クライアント:「作業に時間がかかりすぎて...」
あなた:「1つの作業に、平均何時間くらいかかっていますか?」
5. タイムマシン質問法
使い方
過去や未来の視点から質問することで、現在の課題がより明確になります。
実践例
過去:「1年前と比べて、何が一番変わりましたか?」
未来:「1年後、理想的にはどうなっていたいですか?」
現在:「その理想と現状のギャップは何だと思いますか?」
6. 第三者視点質問法
使い方
本人の意見だけでなく、周りからの視点も聞くことで、客観的な状況が見えてきます。
実践例
「お客様からは、どんな評価をもらっていますか?」
「スタッフの方は、この課題についてどう言っていますか?」
「競合他社は、御社のことをどう見ていると思いますか?」
7. 深掘り3回法
使い方
「なぜ?」「それで?」「つまり?」を3回繰り返すことで、表面的な話から核心に迫ります。
実践例
クライアント:「デザインを変えたいんです」
あなた:「なぜ変えたいと思われたんですか?」
クライアント:「古臭く見えるから」
あなた:「古臭く見えると、どんな問題がありますか?」
クライアント:「若い顧客が離れていく」
あなた:「つまり、デザインで若年層を取り込みたい?」
クライアント:「そう!それが本当の目的です」
クロスセルチャンスを見逃さない
点ではなく面で捉える
一つの課題の裏には、関連する複数の課題が隠れています。それを見つけ出すことで、より大きな価値提供ができます。
クロスセルを生む質問例
「LPを作るとなると、そこに誘導する広告バナーも必要ですよね?」
「せっかくLPを作るなら、LINE登録後のリッチメニューも統一感を持たせませんか?」
「プレゼン資料は、今どなたが作られているんですか?」
タイミングを見極める
ベストなタイミング - 相手が課題を認識した直後 - 予算の話が出た時 - 「ついでに」と相手が言った時
NGなタイミング - まだ信頼関係ができていない序盤 - 相手が困っている最中 - 予算がないと明言された後
ヒアリングシートの活用法
プロが使うヒアリングシートの構成
【基本情報】
□ 会社名・事業内容
□ 設立年数・従業員数
□ 年商・目標売上
□ 意思決定者・決裁フロー
【ビジネスモデル】
□ ターゲット顧客
□ 商品・サービス内容
□ 価格帯・収益構造
□ 競合他社・差別化ポイント
【現状の課題】
□ 売上面の課題
□ 集客面の課題
□ 運用面の課題
□ その他の課題
【ファネル分析】
□ 月間流入数
□ CV率
□ 成約率
□ LTV
【今回の要望】
□ 実施したいこと
□ 期待する成果
□ 予算感
□ 希望納期
【将来展望】
□ 1年後の目標
□ 3年後のビジョン
□ そのための課題
使い方のコツ
- 全部埋めようとしない - 自然な会話の流れを優先
- 数字は必ず確認 - 曖昧な部分は後で確認
- メモは最小限に - 相手の目を見て話すことを優先
よくある失敗と対処法
失敗例1: 尋問になってしまう
状況: 質問を連発して、相手が疲れてしまう
対処法: - 質問の間に自分の意見や経験を挟む - 「なるほど」「素晴らしいですね」などのリアクションを入れる - 相手の答えを深く掘り下げてから次の質問へ
失敗例2: 誘導尋問になってしまう
状況: 自分の売りたいものに誘導する質問
対処法: - 本当に相手のためになることは何かを考える - 複数の選択肢を提示する - 「必要ない」という結論も受け入れる
失敗例3: 表面的な情報で満足してしまう
状況: 「はい」「いいえ」で終わる質問ばかり
対処法: - 「どのように」「なぜ」を使った質問を増やす - 具体例を求める - 感情面での影響も聞く
実践トレーニング
今日から始められる練習法
1. 日常会話でのヒアリング練習 - 家族や友人との会話で「なぜ?」を3回聞いてみる - 相手の話を要約して確認する習慣をつける
2. ニュース記事での仮説トレーニング - 企業のプレスリリースを読んで、裏にある課題を推測 - その企業に提案するとしたら何を聞くか考える
3. ロールプレイング - 同僚とクライアント役を交代で練習 - 実際の商談を想定したシナリオで実践
まとめ - 聞く力が、売る力になる
ヒアリングは単なる情報収集ではありません。相手の成功を心から願い、そのために必要な情報を引き出すプロセスです。
上手なヒアリングができれば: - 相手が自ら課題に気づく - 解決への意欲が高まる - あなたへの信頼が深まる - 最適な提案ができる - 成果が出やすくなる
今日から意識すること
✅ 「売る」ではなく「理解する」ことにフォーカス ✅ 相手の話を8割、自分の話を2割に ✅ 表面的な要望の裏にある、本質的な課題を探る
次の商談では、ぜひ「もう一段深い質問」を意識してみてください。きっと、今まで見えなかった景色が見えてくるはずです。
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